
「波瀾万丈、どんとこい。」
――この短い言葉ほど、背中を押す合言葉はありません。
小久保裕紀さんは、そう言って笑いました。
笑いながら、前に出ます。
私たちは波を恐れます。
でも、波の正体は「変化」そのものです。
変化は、磨いてくれる砥石です。
逃げれば鈍り、向き合えば光ります。
小久保さんは、日本を代表する四番です。
だけど順風満帆ではありません。
ケガで棒に振った年もあり、異例の無償トレードもありました。
それでも立ちました。
だからこそ、この言葉に重みが宿ります。
「波瀾万丈、どんとこい。」
波を力に変える技術。
今日はその核心を、仕事の現場に落とし込みます。
波を受けて、なお前に。小久保裕紀という“姿勢”
小久保裕紀。1971年生まれ。右の長距離砲。
プロでは本塁打王、打点王。二千安打の偉業。
そして今は、福岡ソフトバンクホークスの監督です。
学生時代には、バルセロナ五輪で銅メダルに貢献しました。
“代表の重み”を語るインタビューは今も熱い。
日本の四番が背負う視線と責任。
その重力に耐える筋力は、日々の積み重ねでしか育ちません。
しかし2003年。
オープン戦の本塁クロスで膝の大怪我。
右膝前十字靱帯断裂などの重傷で、シーズンを丸ごと失いました。
翌オフは無償トレードで巨人へ――球界を揺らす出来事でした。
ここで折れないのが小久保さんです。
「怪我のおかげで体づくりが変わった」と語る。
考え方をテコに、下半身を作り直した。
この“認知の反転”こそ、勝負を分ける差です。
その後は巨人の主将を務め、古巣に復帰。
代表監督としてWBCを戦い抜き、いままたホークスの采配を振る。
逆風をエネルギーに換える流儀は、一貫しています。
なぜ「波乱」は仕事力を削るのか
忙しい日々は、判断を曇らせます。
突発の障害、見えない負担、責任の圧。
私たちは「波」を敵に回しがちです。
すると、二つの悪循環が起きます。
一つ目。
時間軸が短くなる。
目の前の火消しに追われ、設計思考が抜けます。
結果、再発防止が置き去りになり、同じ炎上が戻ってきます。
二つ目。
言葉が粗くなる。
自分も他人も責める言い回しが増え、チームの余白が消えます。
余白が消えると、工夫の芽が出ません。
「波瀾万丈、どんとこい。」は、真逆の態度です。
波を前提に、設計を変える。
言葉を整え、余白を守る。
それが、変化対応の筋肉です。
小久保さんは、怪我を「強化の機会」に置き換えました。
トレーニングも食事も見直し、四十代まで戦える体を作った。
事実、復帰後の下半身は強く、打撃は再設計されました。
出来事の意味は、捉え方で変わります。
解決策の核心:波を「設計」に織り込む
ここからは、現場で使える手順です。
枠組みはシンプル。
As-Is/To-Be → 5Whys → 意思決定マトリクス → OODA。
波を恐れず、設計に組み込みます。
1) As-Is/To-Be:現状と到達点を1枚で可視化
まず、A4一枚で書き出します。
現状(As-Is)は、事実だけ。
「納期が不安」「人が足りない」は気分。
「今月の人員は6名、案件は8本、ピークは水曜」――これが事実です。
到達点(To-Be)は、行動で表現します。
「売上アップ」ではなく、「週内に優先3件を納品」。
数字と締切を添える。
書けないなら、情報が足りません。
聞きに行きましょう。
※小久保さんは、ケガという事実に対し「下半身強化」というTo-Beを置きました。
出来事に意味づけを付け、行動へ橋をかけたのです。
2) 5Whys:根っこを1つ、掴みに行く
炎上の真因は、たいてい1〜2個です。
表層を撫でる対処で終わらせない。
「納期が遅れた」→ なぜ?
「レビュー滞留」→ なぜ?
「依頼と仕様が食い違い」→ なぜ?
「合意の場がない」→ なぜ?
「要件定義のチェックリストがない」。
ここで止めます。
“人のせい”に落ちないよう、仕組みの欠落で捉える。
小久保さんが「考え方を変えた」のは、まさに根本対応です。
3) 意思決定マトリクス:選択肢を“点数”で並べる
対策案は3つ用意。
「やらない」も選択肢に入れます。
評価軸は、効果×実行難度×再現性。
各5点満点で採点。
総合点トップを、最初の一手にします。
ここで重要なのは、過去の自分に勝つこと。
他人比較は毒です。
過去の自分より、一歩良くする。
その積み重ねが“継続可能”を生みます。
4) OODA:Observe→Orient→Decide→Act を2週間サイクルで
現場は動きます。
「計画」より「観測」です。
観測して、向きを合わせ、決めて、動く。
2週間でひと回し。
ミニ計画→即行動→小さなレビュー。
波を観測し続ける仕組みです。
小久保さんは現役、代表監督、球団監督と“役割”を更新しました。
状況に応じて、観る視点を切り替えた。
OODAは、それを言語化しただけです。
マインドセット:言葉を整える、体を整える、型を整える
波に立ち向かうには、三つの整えが効きます。
1. 言葉を整える
「忙しい」ではなく、「いま手が足りない」。
「無理」ではなく、「この条件なら可能」。
言葉は、思考のレールです。
レールを引き直すと、列車が違う駅に着きます。
2. 体を整える
集中力は体力です。
睡眠、姿勢、食事、歩く量。
小久保さんが“下半身を作り直した”ように、基礎を強化します。
筋力は意志力の土台です。
3. 型を整える
朝イチの30分は、思考タスク。
午後の20分は、連絡・調整。
夜は、翌日のTo-Beを書く。
この「型」は、OODAの加速装置です。
ケースから学ぶ:逆風の“意味づけ”を変える
2003年の怪我でシーズンはゼロ。
無償トレードで新天地へ。
並の選手なら、心が折れます。
小久保さんは、意味を変えました。
「この一年で、土台を作り直す」。
翌年から巨人で355試合、主将も務めました。
“逆風は、再設計の時間”へ。
そして、代表監督としてWBCへ。
結果が全ての舞台で、批判の矢面にも立ちました。
それでも、選手を立てる。
矢を受け、盾になる。
リーダーの覚悟です。
いま、ホークスの指揮官として再び波を迎えます。
若い選手が伸びる時、チームはうねります。
勝ち負けの波を、成長の波に変える。
監督の仕事は「意味づけ」の連続です。
実務への落とし込み
ここからは、あなたの現場に寄せます。
時間がない。
人も足りない。
それでも成果を出したい。
今日の30分でやることは三つです。
-
As-Is/To-Beを1枚に書く。
締切と数字を入れる。
曖昧語を消す。 -
5Whysで1つの真因に絞る。
“仕組み”に矢印を向ける。
人に向けない。 -
マトリクスで一手を決め、OODAを回す。
2週間で小さく検証。
結果は“次の観測”の栄養に。
この三つで、波は「練習相手」に変わります。
練習相手は、強いほどありがたい。
強い波ほど、脚が太くなります。
結び:波は、あなたの“相棒”です
結局、勝負を分けるのは態度です。
波を敵にするか、味方にするか。
小久保さんは、波を練習相手にしました。
だから「どんとこい」と言える。
私の意見は明快です。
波を“設計”に織り込めば、恐れは消えます。
As-Is/To-Beで視界を開き、
5Whysで根を掴み、
一点突破でOODAを回す。
今日の30分で、最初の一手を。
あなたの「どんとこい」は、小さな着手から始まります。
波が高いほど、得るものは大きい。
さあ、行きましょう。
