
「やらなければならないこと」
を好きになるという幸福論
ジェームズ・バリーが教えてくれる、
“本当の幸せ”の見つけ方
1. 「好きなことをして生きる」幻想の罠
「好きなことだけして生きていけたら…」
誰もが一度はそう夢見たことがあるのではないでしょうか?
ですが現実は、好きなこと“だけ”で構成された日々など、そうそう存在しません。
満員電車での通勤、気を遣う上司とのやりとり、締切に追われる資料づくり。
こうした“やらねばならぬこと”は、大人になった私たちの暮らしに否応なく忍び込み、しばしば「不幸せ」の象徴として私たちの前に立ちはだかります。
しかし、そんな現実を前に、イギリスの劇作家ジェームズ・バリーはこう語ります。
「幸せの秘訣はやりたいことをするのではなく、やらなければならないことを好きになることである。」
彼が創り出した『ピーター・パン』は、「子どもでいること」を讃える物語として知られています。
ですが、その裏側には「現実を受け入れる勇気」こそが人生を豊かにするという、深いメッセージが隠れているのです。
2. バリーの人生に学ぶ、「受け入れる力」
ジェームズ・バリーは決して順風満帆な人生を送っていたわけではありません。
彼の兄は若くして事故死し、その死をきっかけに母親は深い悲しみに沈みました。
少年だったバリーは、亡き兄の代わりを務めようと無理をして、背を低く保ち、大人びた言葉を選ぶようになったといいます。
やりたいことよりも、「求められていること」を優先した彼の幼少期。
そこには痛みと葛藤がありました。
それでも彼は、書くこと、物語ることの中に自分の役割と喜びを見出していきました。
つまりバリーにとっての幸福とは、「好きなことを自由に選ぶこと」ではなく、「与えられた役割の中に意味を見つけること」だったのです。
私たちが今いるこの仕事場も、家庭も、決して“完璧に望んだ場所”ではないかもしれません。
けれど、それでも、そこで喜びを見つけられたときこそ、本当の意味で人生が動き出すのではないでしょうか。
3. やらなければならないことを、好きになる3つの視点
やらなければならないことを好きになる――
それは魔法のように一晩でできることではありません。
しかし、視点を少し変えることで、確実に心は変わります。以下に3つの視点を紹介します。
■ 「誰かのため」という角度で見る
ある保育士の男性は、勤務中の雑用――例えばトイレ掃除や園庭の草むしりに対して、はじめは不満を感じていたそうです。
けれど「この清潔さが子どもたちの安全を守る」と考えるようになったとき、彼の手は自然と動き出したといいます。
やる理由が「誰かのため」になったとき、人は自然と前向きになるのです。
■ 「成長の種」として受け止める
やりたくない仕事ほど、実は自分の伸びしろが詰まっていることがあります。
たとえば苦手なプレゼンも、やればやるほど話し方に磨きがかかり、自己表現力が高まっていく。
「これは未来の自分を強くする試練だ」と考えてみてください。
やらなければならないことが、やがて“できる自分”を作ってくれます。
■ 「小さな楽しみ」を添える
どうしても辛いときには、自分へのご褒美をセットにしてみるのも手です。
「この書類を片付けたら、帰りに美味しいコーヒーを買おう」
そんなささやかな楽しみが、日常を支える支柱になります。
やらなければならないことに、「好きになる工夫」を添えることで、義務は喜びへと変わります。
4. 心のあり方が変わると、世界も変わる
心理学者ヴィクトール・フランクルは、ナチスの強制収容所で過酷な日々を送りながらも、「人間は環境に左右されるのではなく、自らの態度を選ぶ自由がある」と説きました。
彼の言葉と、バリーの「やらなければならないことを好きになる」という思想は響き合っています。
現実が変わらないなら、自分の見方を変える。
これは単なる“我慢”ではなく、積極的な“選択”です。
私たちはいつでも、日常の中に小さな幸せを育てることができます。
忙しい日々の中で、ふと目を閉じてみてください。
誰かのために頑張っているあなた自身の姿が見えてきたら、それはすでに「好きになれた証」です。
5. 幸せとは、「選ぶこと」ではなく「味わうこと」
バリーが遺したこの名言は、現代社会においてますます深い意味を持っています。
「選択の自由」が手に入った現代だからこそ、選んだ後にどう味わうかが問われています。
理想の仕事を探し続けるより、今いる場所に根を下ろし、そこから世界を変えるほうが、実は確実で豊かな道なのかもしれません。
幸せは、外から与えられるものではなく、自分の心が決めるもの。
だからこそ――
「やらなければならないこと」にこそ、人生のヒントが詰まっているのです。
今日から「やらなければならないこと」を見直そう
1日の終わり、あなたの机の上に残された仕事。
それを「義務」と見るか、「役割」と見るかで、心の重さは変わります。
「やりたくない」と思っていたタスクにも、誰かを支える意味がある。
そこに気づいたとき、私たちはほんの少し優しくなれます。
バリーが伝えたかった「幸せの秘訣」。
それは、外の世界を変えることではなく、自分の心の中に「好き」を育てることなのです。
どうか、今日という日が、少しだけ軽くなりますように。
そして、やらなければならないことの中に、ひとつでも「好き」が見つかりますように。