自己を過大評価した瞬間から、
思考の硬直が始まる
野村克也が教えてくれる
“過信”
という名の落とし穴
自信は武器になる、でも過信は足かせになる
仕事で結果が出始めたとき、評価されはじめたとき、ある種の「錯覚」が私たちを包みます。
「自分はもう、十分わかっている」と。
その一歩先にあるのが、思考の硬直です。成長を止める“見えない壁”は、意外にも自分の内側にあります。
野村克也――日本プロ野球界の生ける伝説とも称されたこの名将は、華々しい成功の裏に、徹底した自己省察の人でもありました。
彼が遺した名言「自己を過大評価した瞬間から、思考の硬直が始まる。」は、いまもなお多くのビジネスパーソンの胸に突き刺さります。
なぜ「成功」が成長を止めてしまうのか?
人間は、本能的に「正解」や「安定」に惹かれます。
一度うまくいった方法を繰り返す。評価されたやり方を信じ続ける。
それ自体は悪いことではありません。しかし、それが「唯一の正解」だと思い込んだ瞬間に、思考は止まり、成長の余地がなくなってしまうのです。
特にキャリアを積んだ30代以降、仕事で得た“経験”が、逆に変化を拒む「壁」に化けることがあります。
野村氏は、選手やコーチに「自分を客観的に見る力」がなければプロとして生き残れないと繰り返し説きました。
過信は一種の麻薬です。自信の仮面を被って、静かに人の成長を蝕んでいきます。
野村克也の“ぼやき”に潜む鋭さ
野村氏の代名詞といえば“ぼやき”ですが、その中身は実に深い洞察に満ちていました。
「いい時にこそ、なぜ良かったかを疑え」
「負けには理由がある。勝ちにも理由がある。しかし勝ちは油断を生む」
彼は、選手に対して結果以上に「考えているか」「思考が柔軟か」に重きを置きました。
つまり、伸び悩んだときだけでなく、うまくいっている時こそ、むしろ危ない。
“自己評価”のズレがそのまま“成長のブレーキ”になることを、誰よりも知っていたのです。
イチローもまた、過信を拒んだ男だった
ここでもう一人、野村氏に匹敵する「思考の柔軟性」を体現した人物を紹介したいと思います。
イチローです。
彼は通算4,367安打という世界記録を樹立したにも関わらず、自身を「特別な才能のある人間ではない」と言い続けました。
成功のなかにあっても、自分を客観視し、慢心を拒み続けたのです。
「小さなことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただ一つの道」──
それはつまり、どんな場面でも“自分に満足しない”という姿勢です。
自己を過小評価する必要はありません。ただ、過大評価は必ずと言っていいほど、思考停止と停滞を呼びます。
なぜ「硬直思考」は現代社会にとって危険なのか?
VUCA(不確実・不安定・複雑・曖昧)の時代と言われて久しい今、もっとも求められるのは「柔軟な頭」です。
過去の成功体験や自信にしがみついている人ほど、新しいアイデアや人の意見に耳を閉ざします。
すると、時代に取り残される。
まさに野村氏の言う「思考の硬直」が、キャリアの停滞、場合によっては転落につながってしまうのです。
野村氏自身も、監督としてチームを率いるなかで、常に「前例にとらわれない発想」を意識していたと語っています。
「一流と呼ばれる選手ほど、変化を恐れない」──その信念が、多くの名選手を育てた根本にあったのでしょう。
自分の“現在地”を疑う勇気
過信とは、「自分を疑わなくなること」です。
あらゆる場面で、過去の自分が現在の判断を支配するようになります。
そして、今の自分が「最高」だと錯覚したとき、変化は止まります。
逆に、自分の思考に違和感を覚え続ける人ほど、常に前に進める。
「自分は今、思考停止していないか?」
「昔の成功体験にしがみついていないか?」
この問いを持ち続けるだけで、あなたの成長は再び加速します。
最後に:野村克也の「問い」に、どう答えますか?
野村克也は、若手からベテランまで、全選手に問いを投げかけ続けました。
「お前は、昨日と何が変わった?」
この言葉を胸に刻むだけで、過信は自ずと後退していきます。
思考が止まることの恐ろしさを知り、変わり続けることに誇りを持てる人だけが、時代を超えて活躍し続けられるのだと思います。
あなたは今日、昨日と何が変わりましたか?
その問いを忘れずに、また一歩、柔らかな思考で前に進みましょう。