あきらめない旋律
ルイ・アームストロングが私たちに残した“続ける勇気”
プロローグ
夜ふけのラジオから、掠れたトランペットが流れました。
奏者はジャズの巨人ルイ・アームストロング。
肺の奥から押し出される音は、疲れ切った心をまるごと抱き上げるようでした。
「もう無理かもしれない」とつぶやいた瞬間、音が背中をそっと押してくれたのです。
大人になった今こそ、この励ましが必要だと私は感じます。
なぜ途中であきらめてしまうのか
脳は変化を避け、エネルギーを守ろうとします。
成長の痛みを感じると、理屈より先にブレーキがかかるのです。
社会の視線も追い打ちをかけます。
失敗すれば評価が落ちる、家族に迷惑がかかる。
失敗のコストを過大に見積もることで、人は足を止めます。
サッチモの少年時代
ルイは1901年、ニューオーリンズの貧しい家庭に生まれました。
街角で拾ったコルネットが人生を変えるきっかけになります。
大みそかに空砲を撃ち、少年院「Colored Waif’s Home」に送られた彼は、
そこで本格的な音楽教育を受けました。
逆境の只中で見つけた音は、彼にとって“逃げ道”ではなく“進む道”でした。
ボイコットを解く九年ぶりの凱旋
1956年、故郷は人種差別法で混成バンドを禁止しました。
ルイは抗議の沈黙を選び、故郷を遠ざけます。
公民権法成立後の1965年、彼はついに故郷でトランペットを掲げました。
九年分の沈黙を破る音に、観客は総立ちとなりました。
「この素晴らしき世界」が生まれた夜
1967年夏、ラスベガスの深夜スタジオ。
プロデューサーのボブ・シールとジョージ・デヴィッド・ワイスが書いた
“What a Wonderful World”を、ルイは夜明けまで録り直しました。
レーベル社長はテンポの遅さに激怒し、扉の外に締め出されたと言います。
列車の汽笛が割り込んでも、ルイは笑って演奏を続けました。
翌年、曲は英国チャート1位。
二十年後、映画『グッドモーニング・ベトナム』で再び脚光を浴び、
いまも平和の讃歌として愛されています。
続けることで開ける景色
ルイは一晩で声をつぶし、何度も肺を患いました。
それでも演奏をやめず、人種差別の舞台を笑顔で乗り切りました。
続ける行為は、結果以上に自分の可能性を少しずつ拡張します。
大人の私たちは、結果を急ぎがちです。
けれど、小さな音でも鳴らし続ければ響きは必ず届く――
ルイの人生がその証明です。
今日あなたができる“ワンノート”
通勤前の五分でも、語学アプリを一問だけ進めてみましょう。
帰宅後の三十分で、楽器や筆を握りましょう。
短い時間でも「続ける」こと自体が自尊心を強くすると私は確信しています。
スマートフォンに成果をメモし、週末に見返すと、想像以上の進歩に気づけます。
エピローグ
サッチモは演奏前、必ずハンカチで汗を拭きました。
光沢のある仕草に、私は“準備を怠らない人の気高さ”を見ます。
あなたが仕事で緊張する朝、ハンカチを思い出してください。
深呼吸し、胸を張り、一歩を踏み出す。
世界は素晴らしい――そう言える瞬間を演奏するのは、ほかならぬあなたです。