仕事は一所懸命しなければいけないが、
仕事は一所懸命してはいけない
——この矛盾を解き明かす——
私が以前勤めていた調剤薬局での話です。
私はいろんな店舗に行って状況などを確認する係みたいなことをやっていました。
ざっくり言って統括するみたいな感じでしょうか。
個人的に言って統括するっていうのは柄でもないし、違和感があるのですが、便宜上話を進めます。
で、ある店舗に行ったら、なんだか様子がおかしい…っていうか雰囲気が良くないんです。
調剤薬局で雰囲気が悪いのって、最悪なんですよね。
病気の方がいらっしゃる場所なのに。
そこで、私のそばにいた若い女性事務員にこそっと、
「どうして、こんなに感じが悪いの?」
彼女は一瞬驚いたように目を見開き、すぐに疲れた表情で話し始めました。
彼女の口から語られるのは、私の5歳ほど年下の男性事務員が常に口うるさく、「黙って俺の言うことを聞いておけばいい」といつも威圧してたそうです。
彼の声は、まるで店内の静けさを遮る地鳴りのように響いてたんじゃないかな。
なんじゃそりゃって思った私は、昼食の時二人きりになったすきを見計らい話を聞きました。
なぜ、そんなに厳しく言ってるのかって。
そのとき彼は顔を上げて、私のほうを「頑なな意思」を持ったまなざしで見上げ話し始めました。
「仕事というものは黙って一所懸命するものじゃないですか。
悩む暇があれば、黙って上司の言う通り手を動かしてりゃいいんです。」
彼にとって一所懸命こそが唯一の美徳であるという認識だったんです。
まったくもって危険な考えです。
単に「一所懸命」に働くだけでは、生産性は向上しないのに。
そこで、彼に
「仕事は一所懸命しないといけないけど、仕事は一所懸命したらいけないし、させたらいけない」という話をしました。
今回はなぜ私は、そのような話をしたのかについて記そうかと思います。
当時、彼に話したことを書いてみます。
実際には下記に記した以外にも、ただ戦略もなく何も考えないで手を動かすだけでは、非効率な事、ただ口うるさいだけでは、スタッフとのモチベーションやチームワークが乱れること。
いろんなデメリットがあるんですが、そのような話をしました。
で、結果どうなったかというと彼は理解できませんでした。
仕方ないので、上司の私が言ってるんだから、考えてねと伝えました。
昨日、その前の職場の女性事務員から、彼は現在も変わってないで大変ですと連絡がありました。
そんなに難しい話なんでしょうか?
とにかく今回は、仕事は一所懸命やるべきではないということにクローズアップして記します。
私たちは、幼い頃から「何事も一所懸命にやりなさい」と教えられてきました。
学校でも、家庭でも、仕事場でも、真剣に努力することが美徳だとされます。
誰もが、一生懸命働くことが成功への近道だと信じています。
しかし、「一所懸命」とは、どこまでが正解なのでしょうか?
過度に仕事へ打ち込むことで、自分を見失ってしまうことはないのでしょうか?
この疑問に対する答えは、時には少し矛盾して聞こえるかもしれません。
「仕事は一所懸命しなければならないが、仕事に一所懸命になり過ぎてはいけない」という考え方がその鍵です。
一見、対立するように思えるこの概念の背後には、現代の働き方や心の在り方に関する深い洞察が隠れています。
この記事では、仕事におけるバランスの取り方や、どうすれば「一所懸命さ」を保ちながらも、自分自身を大切にできるのかを考察します。
1. なぜ一所懸命であることが求められるのか?
「一所懸命」とは、もともと昔の日本において、領地や家業を守るために命をかけて努力することを指していました。
現代では、この言葉は仕事や人生に対する真摯な姿勢を表現するのに使われています。
現代の社会でも、真摯な努力は高く評価されます。
特に仕事において、一所懸命に働くことはスキルの向上やキャリアの成功に直結するからです。
例えば、ある調査によると、自己努力を続けた人は、そうでない人と比べて収入が20%以上増加したとの結果が出ています。
努力の積み重ねがもたらす成果は、疑う余地がないのです。
一所懸命に働くことは、自己成長にも繋がります。
仕事を通じてスキルを磨き、新たな挑戦に対して前向きに取り組むことで、人は成長します。
常に挑戦し続ける姿勢が、自分の限界を広げ、キャリアアップを可能にします。
自己成長とキャリアの向上。これが、私たちが「一所懸命であるべき理由」です。
2. 一所懸命になり過ぎると失うもの
一方で、「一所懸命に働く」ことが時には自己犠牲を伴うことがあるのも事実です。
近年、過労死やメンタルヘルスの問題がクローズアップされている背景には、過度の労働や「働き過ぎ」に対する社会の警鐘があります。
仕事に全てのエネルギーを注ぎ込むあまり、心身のバランスを崩してしまうことがあります。
たとえば、長時間労働を続けることで、睡眠不足に陥り、次第に生産性が低下し、最終的には燃え尽きてしまう「バーンアウト」状態に陥る人が増えています。
実際、日本のある企業では、過労による精神疾患が原因で退職を余儀なくされる社員の数が年間10%増加しているとの報告があります。
こうした事例を見ても、仕事に一所懸命になり過ぎることで、健康を損ない、逆に自分のキャリアや人生に悪影響を及ぼすリスクがあることが分かります。
過度な努力は、自分自身を犠牲にしてしまう危険性を秘めているのです。
3. バランスを取るための「適度な一所懸命」
では、どうすれば一所懸命に働きながらも、自分を見失わずに済むのでしょうか?
その答えは、「適度な一所懸命」にあります。
適度な一所懸命とは、必要な場面ではしっかりと力を発揮しつつ、無駄なエネルギーを費やさない働き方です。
例えば、仕事の優先順位を明確にし、本当に重要なタスクに全力を注ぎ、それ以外のタスクには適度な時間とエネルギーを割くことが求められます。
また、休息を取り入れることも重要です。
人間の脳は、連続して集中できる時間が限られています。
ある研究では、人が一日に集中できる最大時間は約4時間とされています。
長時間働き続けても、その後の生産性はむしろ低下することが証明されています。
適度に休憩を取り、心身をリフレッシュすることで、仕事の効率を最大限に引き出すことができるのです。
4. 「一所懸命しすぎない」ための実践的なステップ
では、どうすれば「一所懸命になり過ぎない」ための具体的なアプローチが取れるのでしょうか?
以下のステップを実践することで、バランスの取れた働き方が実現できます。
1. タスクの優先順位をつける
一日の始まりに、やるべきことをリスト化し、その中から最も重要な3つのタスクを選びます。
重要なタスクに集中し、それ以外の作業は優先順位を下げることで、余計なストレスを軽減します。
2. 時間管理を徹底する
一つの作業に対して一定の時間を設定し、その時間内に完了することを目指します。
ポモドーロ・テクニックなど、25分作業+5分休憩のサイクルを繰り返す方法は、集中力を保ちながら適度な休息を取るために有効です。
3. 定期的に振り返りを行う
週に一度、自分の働き方を見直し、過剰な努力や無駄なエネルギーを費やしていないかを振り返ります。
これにより、効率的な働き方を維持し、必要に応じて改善策を講じることができます。
4. 「いい意味での手抜き」を覚える
完璧主義を捨て、完了すべきタスクに対して「十分なクオリティ」を求める意識を持つことが大切です。
全てを完璧にしようとすると、時間もエネルギーも浪費してしまいます。
5. まとめ:「一所懸命しなければいけないが、一所懸命してはいけない」
仕事に対する真剣さや努力は、もちろん大切です。
しかし、それを無条件に続けることが最善策ではありません。
自分自身を大切にし、バランスの取れた働き方を実現することで、持続可能な成功と成長が得られます。
一所懸命に働くことと、一所懸命に囚われ過ぎないこと——
この微妙なバランスを理解することで、人生のあらゆる面でより豊かに過ごせるようになるのです。
次に仕事に取り組むときは、「今、本当に一所懸命になるべきか?」と問いかけてみてください。
きっと、適度な努力とリラックスが、あなたのキャリアと人生をより良いものにしてくれるでしょう。